会議室のドアが閉まったのは、午後二時を少し過ぎた頃だった。

その日の社内は、妙に音が少なかった。

タイピングのリズムも会話も、なぜか控えめになっていた。

皆、仕事に集中しているふりをしながら、どこか耳を澄ませていた。

そう、“何かが起きている”という気配を、誰もが感じ取っていたのだ。

理由はわかっている。

会議室には、三田が入っていた。

ドアの向こうから漏れてくる声は、はっきりとは聞こえない。

けれど、声量の大小、言葉の間、ため息のリズムだけでも、

何が話されているのか、だいたいの察しはつく。

上司の声が強くなり、

間を置いて、抑えた女性の声が返る。

否定なのか、言い訳なのか。

言葉の端にある“焦り”の匂いは、壁を通してでも伝わってくる。

時折、会議室前を通るふりをして、

そっと様子をうかがう者もいた。

けれど誰も近づかない。

“空気を読みながら傍観する”――それがこの会社の処世術なのだ。

90分が経ったころ、ドアが開いた。

最初に出てきたのは、部長。

表情は強ばり、額には汗がにじんでいた。

その後に続いて、三田が姿を現した。

ヒールの音は変わらない。

背筋もいつも通りに伸びている。

何より驚いたのは――彼女のメイクが、まったく崩れていなかったことだった。

目尻のラインはくっきり、

眉のアーチも朝と同じ。

口元に薄く残るローズピンクのリップは、乾きすら見せていない。

泣いていない。

堪えた形跡も、動揺もない。

まるで「ちょっと資料の確認で呼ばれていました」という顔をして、

彼女はデスクに戻っていった。

戻った彼女はすぐに、周囲の社員に「疲れましたね〜」と笑った。

別の社員が「大丈夫だった?」と声をかけると、

彼女は笑いながらこう答えた。

「え? 全然。むしろちょっと笑っちゃって」

それは強がりではなかった。

開き直りに近い無邪気さだった。

彼女はまだ23歳だ。

新卒2年目。

きっと、「ちょっとミスっただけ」「そんな大ごと?」くらいにしか思っていない。

自分の処理の先にある“信頼”や“公平”なんて、考えたこともないのだろう。

自分の数字を守ることが最優先で、

そのために“事実を都合よく加工する”ことが、

どれほど重大な意味を持つかもわかっていない。

けれど、それを「若さ」で片づける気はなかった。

人は、泣かなかったことで「勝った」と思うことがある。

でも、泣かなかった者ほど、後で帳簿に名前を残される。

感情を出さなかったからといって、

事実が消えるわけではないのだから。

私はその日、会議室の照明の下でうつむくこともせず出ていった三田の後ろ姿を、静かに記録した。

今日のお昼ご飯はバ先でコンビニ巻き寿司🍵🍚と長崎のお土産カステラ。ちょっとした気遣いが嬉しい。

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