一枚のシフト表。それは、ただの配置表ではなかった。

誰と誰を組ませるかで、人間模様は変わる。口に出さない不満が、毒を孕んだ花のように膨らんでいく。

その花の蕾を、丹念に植え替えているのが——中原チーフだ。

受付業務は、カジノのような建物の中で行われる。三十分ごとに場所を移動し、誰かとペアになる。

本来なら、仕事を回すための単なるローテーション。だが、彼女の手にかかると、配役は舞台のキャスティングに変わる。

仲の悪い者同士を組ませ、仲の良い者を悪口で繋がせる。噂に過ぎない、と笑う人もいる。

でも私は知っている。偶然を装った必然は、偶然より恐ろしいということを。

最近の彼女の中でのトレンドは、今までやったことのないポジションに2名同時新人や、私のような普段別の店舗にいる人を組ませて、トラブルを起こすこと。

その日、私と組まされたのは金井さん——ぽっちゃりした山瀬まみ風の二十代後半女性。

ラストまで働くポジションに入るのは、私にとって初めてだった。

「お財布を見つけたよー!」

白いキャップに眼鏡、若作りした六十代の男性客が、金井さんに声をかけた。お金は持っていそうな雰囲気で人に優しくする余裕もある。

金井さんは財布を拾い、警備に届けたが、初めての拾得物対応で権利主張を確認し忘れた。

「どうしよう、見失っちゃった」と困惑する金井さん。その時間が16時51分過ぎ。

私はその客の顔を覚えていたので、広いフロアを探し、本人に「権利は主張しない」と確認してジャイアンのような体型の警備に伝えた。

念のため二人の警備員にも同じことを告げておいた。

そして、16時56分。

まるで舞台の暗転後に現れる影のように、中原チーフが受付にやってきた。

「さっきねぇ、あの警備員さんが言ってたのよ。〇〇派遣会社の若い女の子が落とし物を拾ったけど、権利主張の確認をし忘れたって。その後連絡ないんだって。」

私は目を瞬かせた。

「え? お客さんから“権利主張しない”って聞いて、警備さんにも二人に伝えましたよ? 本部にも無線で入れてましたよね。」

「そうなのねぇ。あの警備さんがちゃんと報告しなかったのね。私が本部に言っておくわ。」

その時間、私たちは無線を返却していた。

彼女は、私たちが無線の内容を知らないと思っていたはずだ。

だが、私は警備員の横で無線を聞いていた。事実確認はできている。

「いえいえ、ちゃんと伝わっていると思いますよ。」

私がそう返すと、中原チーフは小さく笑ってこう言った。

「〇〇派遣の女の子が確認し忘れたって、その警備さんが言っていてね。原口さんたちかなぁって思ったのよ。可愛らしくて、小柄で若い子って言ってたから。」

小柄——?

私たちは受付で座ったまま、警備員と話していた。体格のことなど、分かるはずがない。

金井さんと顔を見合わせた。

「おかしいですよね。やっぱり盗聴されてる気がしますね。」彼女は小声で言った。

私は目配せし、黙って頷いた。

5分間の間にこんなことがあるわけ無い。

偶然を装った配置、見えない耳、知らぬ間に貼られるレッテル。

女の勘はいつだって、見えないものを嗅ぎ分ける。

だが、奇妙な人間模様は中原チーフだけではなかった。

黒野里香——五十歳。

年齢だけなら、ただの中年の女性社員にすぎない。だが、その周囲には異様な空気が漂っている。

三十四歳の息子、二十六歳の娘。

さらに彼女には、元ヤクザの男がいる。半グレの世界にいたその男は、一年の刑期を終えて昨年シャバに戻ってきた。不倫相手として、彼女の人生に深く食い込んでいる。

前々から「刺青を入れたい」と豪語していた黒野さん。

その日、制服を脱いで私服に着替えた瞬間——私は言葉を失った。

右肩から肘にかけて、蛇の輪郭が黒々と走っていたのだ。まだ色は入っていない。だが、そのアウトラインだけで十分に毒気を放っていた。

蛇。

執念深く、ひとの隙を狙う生き物。

洋服は豹柄ピタッとしたボディコン。サンダルも10センチヒールの豹柄。

彼女が求めたのは、単なる装飾ではない。自らの内面を刻印した“証明”だ。

普通を装いながら、異常を隠し持つ人間。

それは中原チーフの「仕組まれた配置」と同じ匂いを放っていた。

黒革の手帖の空白のページが、今日もひとつ埋まっていく。

そして、贅沢ができないとわかってはいるものの、私の今日の夜ご飯はこれ。

明日も副業頑張ろう!!

転職して収入アップした方が効率良い気がするが。

今度看護助手のバイトしてみたいなぁ。

レバウェル看護

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