― 自尊心の糸が切れる音が、もう聞こえている。
前回の続き。
「80歳のお客さんが全部理解できるとは思いません。
それに、会社の方針として“衛生上の理由で最低限の接触で対応するように”と言われていたと思いますよ。」
そう伝えた瞬間、空気が変わった。
朝青龍ちゃんの目が一瞬だけ泳いだ。
“自分の正義”を疑うという経験が、人生で初めてだったのかもしれない。
「他の施設ではどうやってるかわからないけど、
私たちは“親切にする”のが正しいと思ってるから。」
彼女はそう言い放った。
その「親切にする」という言葉の裏に潜むのは、いつだって支配欲だ。
相手を“助ける”ことで優位に立つ。
優しさという鎧をまとった、暴力的な承認欲求。
その日、80歳の老人が望んだのは、
「今この場でネットで購入したい」という、ただそれだけのことだった。
ゼロから百まで教える必要などない。
それを“親切”と呼ぶのは、相手の尊厳を奪うことだ。
けれど彼女には、それがわからない。
“正しさ”を演じることでしか、自分を保てないのだ。
「じゃあこれで、私は帰ります……」
バツの悪そうな顔でそう言い残し、
彼女はパンプスのかかとを引きずるように去っていった。
すかさず、周囲の二人がフォローを入れる。
「私たちは、ここにいてくれるのは歓迎だけど〜」
その口調に漂う、保身と社交辞令。
私は心の中でため息をついた。
——どいつも、こいつも、めんどくさい。
こうしてこの職場は、今日も“親切”という名の支配と、
“和”という名の沈黙で、ぬるま湯のように濁っていく。
私はただ、心の中で笑っていた。
その日の帰り道、
ロッカー室では“いつもの声”が聞こえなかった。
あの甲高い声がないだけで、空気が澄んでいた。
同僚たちは言う。
「あの人、今日は機嫌悪かったね」
「でも、言ってることは間違ってないよ」
みんな、彼女のことを笑いながらかばう。
怖いのだ。
声の大きな人を敵に回すのが。
話を聞いてみると、時計を置く位置が1センチ違っているのが見えると、遠くから走ってきて、これは指3本分机の淵から離してセットしてくださいね!など、目を光らせているのが怖いという意見があった。
だから彼女は、今日も支配できる。
恐怖という見えない鎖で。
私は黙って制服から着替え、鏡に映った自分と目を合わせた。
その顔は、もう怒ってはいなかった。
——怒るより、見抜く方が楽しい。
“善意の暴力”も、“支配の声”も、
いつか静寂の中で消える。
私はその瞬間を、静かに待つつもりだ。
その笑みが、唯一の防御になることを知っているから。
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先日、有給をとった日に食べた朝マック。
最高!その日の夕方は介護施設での食事介助のバイト。有効活用できて満足。

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